不動産登記簿の読み方

不動産登記簿の入手と登記簿情報からの情報収集は、与信判断の基本事項であるだけでなく、誰にでもできる基本的な情報収集方法です。取引先や債権の管理を行う上で重要になるのが、取引先の財務状況に対する適切な判断。そのためにも、登記簿には必ず目を通しておきましょう。

登記簿を読む必要性

登記簿はどのようなときに読む必要があるのでしょうか? 本来の目的としては、建築企画をする際に必要になります。登記簿は、取引先の経営状態を把握するためにも活用できます。登記簿を読むことによって担保設定の状況がわかり、取引先企業の経営危機を推し量ることが可能になります。

取引先に掛売りを行った場合、代金回収を行う前にその企業が倒産してしまえば売掛金は焦げ付き、あわや連鎖倒産……といった危険性をはらんでいます。不良債権を発生させないためにも、また債権回収の策を他社に先駆けて行うためにも、取引先の不動産状況を確認することは大切です。

以上のように、登記簿を活用して取引先の財務状況を判断するやり方を知ることは、取引先や債権の管理を行う立場の経営者にとっては非常に重要なことなのです。

登記簿の構成と記載事項

登記簿をつづったファイルには土地・建物が別々に保管されており、地番が多い『町』などでは、地番の若い順に何冊にも分冊されています。登記簿は「表題部」「甲区」「乙区」で構成されており、分譲マンションなどでは表題部が全体の面積を表示した部分と区分所有(本人の所有部分)の2枚に分かれています。

表題部の記載事項
土地の表題部
  • 不動産登記上の所在(所在地;○○市○○区○○町○番地)
  • 地目(宅地・畑・田・山林・雑種地・沼地・池・その他:地目の変更)
  • 地積(面積:平方メートル表示)(地積の変更:合筆・分筆など)
建物の表題部
  • 不動産の所在
  • 種類:居宅・店舗・事務所・工場・倉庫など
  • 床面積:各階別面積(平方メートル表示)
甲区・所有権の記載
ここには所有者に関する登記が記載されています。その種類としては、
  • 所有権保存登記
  • 所有権移転登記
  • 所有権一部移転登記
  • 所有権移転仮登記
  • 条件付所有権移転仮登記
  • 差押登記
  • 仮差押登記
  • 仮処分登記
  • 競売申立登記

などがあります。つまり、甲区には「所有権」に関する事項が記載されています。たとえば、所有名義人について、会社所有なのか、役員所有なのか、借用物件なのかが判断できます。さらに所有権の移転事項を見れば、だれからだれに権利が移転したかが判明します。また移転の年月日でその不動産の含み資産もわかります。これは、移転時と現時点との時価の差額から判断します。

この他にも甲区の欄をみると、売買による取得なのか、相続による取得なのか、都市計画による取得なのか、移転の原因がわかります。甲区に所有権移転請求権仮登記の設定があったり、「差押え」「仮差押え」が記載されている場合は、その会社の借入能力・支払い能力などに問題があると判断できるため、注意が必要です。さらに、過去の抹消事項に以上のような事例があったかどうかも重要なデータになるでしょう。
乙区・所有権以外の権利
ここには所有権以外の権利の記載がなされていて、登記される権利には、
  • 抵当権設定登記
  • 地上権
  • 根抵当権設定登記
  • 地役権
  • 賃借権

などがあります。乙区には担保設定事項を中心に、いつ・いくらで・だれが・何のために・だれから借用したのかが記載されています。日本の企業は一般的には自己資本の乏しい企業が大半で、その大半が金融機関から借金をしています。ですから、乙区部分が空欄(つまり無担保)の会社はめずらしいといっても過言ではありません。つまり、その会社の安全性・危険性は、乙区部分の権利・義務の設定状況で判断できる場合が多いといえるでしょう。

与信判断のポイント

不動産登記簿謄本を見ることで、会社の与信判断を行うことができます。判断のポイントを、いくつか紹介しておきます。

  1. 所有不動産に担保設定がない会社は優良企業であり、通例では取引は安全であると判断できるでしょう。(しかし、一行取引で不動産の権利書などをその銀行に供託して乙区空白の会社もありますので注意は必要です)
  2. 借入金の金利が同時期に借り入れを行っている他の会社より高利率の会社は、経営内容が良いとはいえないでしょう。(反対に金利が低利率の会社は経営内容の良い会社が多いといえるでしょう)
  3. 担保設定の合計金額が時価の60%~70%以内に収まっていれば、当面は安全圏にある会社と判断しても良いでしょう。
  4. 商取引企業(仕入先)から担保設定がみられる場合、担保提供を行っている企業とどの時点で設定したかという点に注意する必要があります。取引開始から何年も経過している時点での担保提供がなされている場合、その会社との取引において支払渋滞・手形サイトの長期化・手形ジャンプなどが発生している場合がほとんどです
  5. 担保設定に経営者の友人・知人などが多く見受けられる場合、一般金融機関の融資だけでは追いつかず、経営状況はかなり悪化しているものと思われます。
  6. 担保設定状況を見て不審を感じた場合には、共同担保目録に記載されている関連の全不動産の謄本も取り寄せてみましょう。新たな担保設定を発見したり、新しい用地購入計画を発見したりすることもあります。
  7. 経営内容が良い企業の担保設定はすっきりしたものになっているでしょう。
  8. 主要取引先や多少の不安の残る取引先の担保設定の確認は、半年に1度は定期的に行っていきましょう。

金融機関は当該不動産の時価の60%~70%を限度に融資を行っています。そもそも担保というものは、万一融資した企業が倒産してその不動産を競売にかけた場合に貸付金の全額回収をねらうものです。通常、よほどの信用がなければ70%をこえる担保設定は行わないものです。

仮に抵当権が過去に続けて設定された記載があったとしても、その後の追加がまったくなされていない場合、その後の借り増しの必要がなかった企業であり、不動産の含みがあればかなりの資金調達力を持った企業といえるでしょう。

逆に担保設定が毎年のように追加されている企業に関しては、その企業の売上の増減と回収条件のズレなどに注意する必要があり、決算書を入手して回収条件と支払条件の分析を行いましょう。ただし、設備投資の有無にも配慮が必要であり、担保設定の面からだけは結論がだせないことも多々あります。特に本社所在地不動産と社長の自宅不動産の担保設定の確認は必須確認事項になります。